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【うちの本棚】183回 ジャガーの眼/たつみ勝丸(原作・高垣 眸)

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「うちの本棚」、実写作品のコミカライズを紹介するシリーズの第5回目は、たつみ勝丸による『ジャガーの眼』。

昭和30年代にヒットしたテレビドラマのコミカライズ作品である本作は、単行本としては約50年ぶりの復刻で完全収録版が刊行された。読者を飽きさせないスピード感のある展開は、連載当時を知らない読者も一読の価値がある。

【関連:182回 恐怖のミイラ/楠 高治(原作・高垣 眸)】

ジャガーの眼-上 ジャガーの眼-下


本作は、昭和30年代に『月光仮面』や『快傑ハリマオ』とともに人気の高かったテレビドラマ『ジャガーの眼』のコミカライズ作品である。原作は高垣 眸の小説。不勉強でドラマ版、小説版ともに未見で、コミカライズ版がどこまで原作やドラマに忠実なのかはわからない。ちなみに、連載時のタイトルは『ジャガーの目』。

コミカライズを担当した、たつみ勝丸は天馬正人の変名で、同時期に「少年クラブ」で天馬名義の作品を連載していたことからたつみ名義での執筆となったということである。

ジンギスカンの秘宝を巡るストーリーは、冒頭からアクションシーンで、謎と冒険の、展開の早い進行が読者を飽きさせない。これは数々の人気少年小説を生み出した高垣 眸の魅力でもあるのだろう。

作画面では、もともと堀江 卓に雰囲気の似ている天馬だが、後半になると見分けがつかないほど筆致が酷似していく。当初シンガポールや香港を舞台にしていたストーリーが日本を舞台に移すと、忍者装束のキャラクターも登場し、ますます堀江作品的な印象が強まってしまう。また描線自体もシャープになり、漫画家としての円熟期だったのではないかと思われる。

単行本は、当初2巻までが刊行されたというが未完のままで、マンガショップからの復刻が完全収録となる。連載当時に読んでいた読者にとっては、およそ50年ぶりに結末が読めるということになったわけだ。
ドラマのヒットによって知名度の高い作品でも、埋もれてしまっている作品があるという典型だったかもしれない。

ところで、主人公モリー(黒田杜夫)が初登場シーンで口にする「通りすがりの風来坊です」というセリフ、これって『ウルトラセブン』でモロボシダンが初登場で自己紹介するセリフではないか。まさか、これがルーツ?(笑)

初出:講談社「少年クラブ」1959年8月号~1960年7月号

書 名/ジャガーの眼(全2巻)
著者名/たつみ勝丸
出版元/パンローリング・マンガショップ
判 型/B6判
定 価/各1800円
シリーズ名/マンガショップシリーズ
初版発行日/2008年9月2日(2巻とも)
収録作品/ジャガーの眼

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/


【うちの本棚】184回 隠密剣士/堀江 卓

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「うちの本棚」、今回取り上げるのは、堀江 卓によるコミカライズ作品『隠密剣士』です。昭和37年から40年にかけて放映された大人気ドラマで、忍者ブームを火付け役だったといわれています。
そんなドラマをオリジナルストーリーで漫画化したのは、『矢車剣之助』の堀江 卓。読みごたえ十分の仕上がりとなっています。

【関連:183回 ジャガーの眼/たつみ勝丸(原作・高垣 眸)】

隠密剣士


本作は、昭和30年代終わりに一世を風靡し、子供たちに忍者ブームを巻き起こしたテレビドラマ『隠密剣士』のコミカライズである。とはいえ内容はドラマの設定を踏襲しつつ堀江オリジナルのストーリーとなっている。

堀江 卓といえば『矢車剣之助』が有名で、いくら撃っても弾が尽きない拳銃だとか、大がかりなカラクリのイメージが強いかもしれないが、本作はテレビドラマを下敷きにしていることもあって、シリアスな忍者作品となっている。

昭和30年代から40年代にかけては白土三平の登場で忍者漫画のブームが起こると同時にそれまでの忍術から忍法に表現が変っていった時期でもある。刀で斬られれば腕が飛び、首が落ちるといった残酷な描写は、一部で批判もされた。本作はそこまで過激な表現こそ出てこないものの、実写ドラマの印象をオリジナルストーリーでも損なわない、劇画調の描写となっている。

堀江 卓は、ともすれば杉浦 茂にも近い力の抜けた絵を描くが、『マイティジャック』のソノシートなどかなり写実的な絵もこなす力量の持ち主で、本作はその中間というべき、バランスの取れた描写で読者を楽しませてくれる。
このころの漫画作品は全体的に1ページや見開きといった大コマで見せることが少ない。本作も最大で半ページ程度が大きなコマといえる。それでも迫力は十分伝わってくる。漫画の表現について考える意味でも若い読者に読んでみて欲しい気がする。

また『隠密剣士』自体は、後年リバイバル的に、新たにコミック版が他の作者によって描かれてもいますが、そちらに関しては「オリジナル作品」と判断して今回は取り上げません。

初出:隠密剣士/講談社「週刊少年マガジン」1963年23号~32号、うず汐太郎/少年画報社「少年画報」1957年1月号~6月号、仇討三番勝負/東邦漫画出版社書き下ろし・1958年

書 名/隠密剣士
著者名/堀江 卓
出版元/パンローリング・マンガショップ
判 型/B6判
定 価/1800円
シリーズ名/マンガショップシリーズ
初版発行日/2009年5月2日
収録作品/隠密剣士、うず汐太郎、仇討三番勝負

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】185回 超人バロム・1/古城武司(原作/さいとう・たかを)

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「うちの本棚」、今回取り上げるのは古城武司のコミカライズ版『超人バロム・1』です。

かつてテレビドラマを見ていたという人も、まったくドラマを知らないという人も十分に楽しめるヒーロー活劇作品。原作ドラマの持っていた怪奇性や登場するユニークな魔人も再現したコミカライズ作品のお手本のような仕上がりです。

バロム1・古城


本作は東映制作による特撮テレビドラマ『超人バロム・1』のコミカライズ作品である。このドラマのコミカライズ作品は、本書の古城武司版以外にも、さいとう・たかを/さいとうプロ、松本めぐむによるものが講談社「テレビマガジン」「たのしい幼稚園」、黒崎出版「テレビランド」に掲載されていたようだが、古城版を除いて単行本化はされていない。

テレビ版は当初アニメ作品として企画され、検討される中で『仮面ライダー』のセカンドという形で特撮ドラマとして制作されることが決まった。
原作はさいとう・たかをが講談社の「週刊ぼくらマガジン」に連載していた作品だが、ヒーローである「バロム1」自体のデザインやストーリーは大幅に変更されている。テレビ版からこの作品に触れたボクなどは、のちに原作コミックを見て違和感を感じた(笑)。
『仮面ライダー』が当初怪奇性を打ち出していたように、『超人バロム・1』も怪奇性の強い怪人やストーリーの印象が強い。特に魔人の造型はグロテスクと言ってもいいものが散見され、のちに「トラウマドラマ」としてあげられることも多かった。

さて、古城武司によるコミカライズ版だが、全11話中,魔人が単独で登場するのは4話のみで、基本的に2体の魔人が登場する構成となっている。当然ストーリーもテレビ版をアレンジする形になりオリジナル色も濃い。
注目したいのは、バロム・1や魔人の造型がテレビ版をしっかり再現しているところ。前述したようにこの作品では魔人の造型がひとつの特徴とも言え、コミカライズ版でもそこをしっかり再現しているのは本作品のポイントといえるだろう。
基本的には正統派の少年漫画で、ヒーローの活躍が堪能できる。ある意味、コミカライズ作品の典型ともいえ、コミカライズ作品を多く手がけた古城武司だからこその仕上がりといってもいいだろう。単に魔人が現れ、バロム・1が倒すというだけでなく、各話きちんとしたストーリーがあるのもいい。元のドラマを知らない読者でも十分に楽しめる作品になっている。

本作は連載中に秋田書店「サンデーコミックス」から単行本化され、全2巻が刊行された。が、最終話が未収録のまま再刊行の機会がないまま30年あまりが経ち、マンガショップシリーズから完全版での再刊行となった。特に記載は無いものの、最終話は印刷物からの復刻のようである。

初出:秋田書店「冒険王」1972年8月号~1973年1月号

書 名/超人バロム・1
著者名/古城武司
出版元/パンローリング・マンガショップ
判 型/B6判
定 価/1890円
シリーズ名/マンガショップシリーズ
初版発行日/2007年1月2日
収録作品/呪いの魔人フランケルゲ、快腕魔人エビゲルゲと変化魔人アンコルゲ、毒ガス魔人ゲジゲルゲと地震魔人モグラルゲ、ミノ虫魔人ミノゲルゲ、魔女ランゲルゲ、吸血魔人サソリルゲと洗脳魔人ヤゴゲルゲ、毒ガス魔人クチビルゲと光線魔人ヒャクメルゲ、骸骨魔人ホネゲルゲと脳波魔人ノウゲルゲ、毒トゲ魔人トゲゲルゲ、残忍魔神トゲゲルゲと幻惑魔人クビゲルゲ、対決!! 悪の支配者 大魔人ドルゲ

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】186回 ノストラダムスの大予言/高山よしさと

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「うちの本棚」、今回は単行本未収録作品『ノストラダムスの大予言』をご紹介します。

東宝映画のコミカライズ作品であり、公開当時センセーショナルな話題作でもありましたが、単にノストラダムスの予言に沿って人類の滅亡を描くということではなく、その危機を未然に防げないだろうかと行動する人々を描いています。こん日の目で改めて読み直したい作品です。

【関連:185回 超人バロム・1/古城武司(原作/さいとう・たかを)】

ノストラダムスの大予言・扉


本作は東宝映画『ノストラダムスの大予言』のコミカライズ作品である。秋田書店「別冊少年チャンピオン」の「劇画ロードショー」というシリーズの一編として掲載されたもので、49ページが一挙掲載された。

昭和50年前後はオイルショックなどの社会状況などもあって、終末思想が流行した。小松左京の『日本地没』と並んでベストセラーとなったのが、五島 勉の『ノストラダムスの大予言』で、共に映画化された。
映画版の『ノストラダムスの大予言』は、ノストラダムスの予言書「諸世紀」を所蔵する西田という日本人を主人公に展開するストーリーで、いずれ来る「1999年7の月」に向かって地球が、人類が遭遇するさまざまな異変を描いている。公害や放射能汚染といった社会問題を扱い、突然変異した怪物などが登場する。
コミカライズ版も映画のシナリオを元に描かれており、主なストーリー展開はそのままだが、ひと言で言ってダイジェストと言える。しかし、だからこそ本作のテーマがストレートに伝わっているともいえる。

1999年7の月に現れる「恐怖の大王」について明言はしていないものの、核戦争や核兵器と仮定して、人類の滅亡が語られる。と同時に、公害などを軽減していくために、物質的に質素な生活に戻るべきだとも語る。
しょせんは特撮映画だし、そのコミカライズ作品ではあるが、昭和49年当時のこの警鐘が活かされていたら、もっと違った環境が今あったのではないかと思えてしまう。

作品の中では巨大なナメクジが夢の島の跡地に現れたり、放射能による突然変異の食肉樹がニューギニアで発見されたりと、公害や放射能汚染、さらには環境の変化による洪水や干ばつによって世界の食糧事情にも異変が起こる。そして人類は滅亡に向かって進んでいるのだと印象づけていくわけだが…。
ノストラダムスの予言した1999年7月はなにごともなく、とっくに過ぎ去ってしまったが、作品に描かれたのと似たような異変は現実に起きているのではないだろうか。

このコミカライズ作品を改めて、今現在の目で読み直してみるのもけして無駄なことではないように思う。とはいえ、単行本化もされていない本作は、掲載当時の雑誌でしか読むことができないのが残念である。
コミカライズを担当した高山よしさとに関してはあまり情報がないが、双葉社の「週刊少年アクション」で『ザ・パイロット』を連載していた。また、高山よしのり、高山芳紀として作画・原作しているようである。

初出/秋田書店「別冊少年チャンピオン」(昭和49年9月号)

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】187回 シルバー仮面/蛭田 充

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「うちの本棚」、今回も単行本未収録作品から、蛭田 充がコミカライズを担当した「別冊少年サンデー」版『シルバー仮面』をご紹介します。

連載はドラマの放映途中から始まったため、全3回と短かいものでしたが、蛭田 充のオリジナル色の強い作品となっています。

【関連:186回 ノストラダムスの大予言/高山よしさと】

シルバー仮面・1 シルバー仮面・2 シルバー仮面・3


本作は特撮テレビドラマ『シルバー仮面』のコミカライズ作品である。小学館の「別冊少年サンデー」で全3回、テレビドラマ放映途中からの掲載となった。従って、連載2回目で早くもシルバー仮面は巨大化している。3回中、1、2回は巻頭カラーだった。

登場する星人はテレビドラマに登場した、チグリス星人やサザン星人などだが、内容的にはテレビドラマを踏まえて、蛭田が独自に構成したものとなっている。
本作のテレビドラマは『ウルトラQ』『ウルトラマン』と同じTBS日曜19時という放送枠だったが、裏ではフジテレビで『ミラーマン』が放送されたこともあり、当初等身大だったシルバー仮面は視聴率で苦戦を強いられ、シリーズ半ばで巨大化、『シルバー仮面ジャイアント』とタイトルも変更された。

もっとも、等身大ヒーローは同時期に『仮面ライダー』の放送も始まっており、必ずしも間違った選択ではなかったし、のちのちシリーズ前半の内容が高評価されてもいる。怪獣(本作では星人)が登場する特撮ドラマはヒーローも巨大でなければ、という子供を中心にした視聴者の感覚がまだ強かった、ちょっと早かった作品だったといえる。

コミカライズ版を担当した蛭田 充はダイナミック・プロにも所属していたこともあり、アクションシーンはわりと得意としている印象がある。代表作であるコミカライズ版『デビルマン』でも、それは確認できるだろう。
とはいえ、原作となるドラマやアニメと印象の異なるキャラクターを描くということも蛭田の特徴で、本作の場合原作となるものが実写ドラマなので、コミカライズ版に登場するキャラクターが、主人公を演じた柴 俊夫に似ていなくても仕方ないとはいえ、ベツモノすぎる気がしないでもない。さらにいえば、星人はまだしも、シルバー仮面自体も微妙にドラマ版のマスクと違っていたりする。また、ドラマ版ではシルバー仮面に変身する次男よりも、兄弟たちをまとめる長男が主人公的な活躍を見せていたが、本コミカライズ版ではあくまでも次男・光二が活躍し、兄弟たちは脇役となっている。さらにいえばドラマ版では印象的だった長女も、全くと言っていいほど登場しない。

「ウルトラシリーズ」や「仮面ライダー」シリーズが、放映当時はもちろん、その後復刻や復刊され、コミカライズ版が読める状況にあったのと対照的に『シルバー仮面』に関してはそういったものがない。本作も初出以来単行本化されることがなく埋もれている状態であり、単行本化が待たれる作品といえるだろう。

初出/小学館「別冊少年サンデー」(昭和47年3月号~5月号)

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】188回 惑星大戦争/居村真二

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実写作品のコミカライズ作品を紹介している「うちの本棚」、今回は居村真二の『惑星大戦争』です。

東宝が『海底軍艦』の宇宙版リメイクとして制作した劇場映画のコミカライズ作品で、SFコミックに定評のある居村真二が作画を担当。短いページ数ながらすっきりとまとめ、コマ割りや構図で迫力のある画面を描きあげています。

【関連:187回 シルバー仮面/蛭田 充】

惑星大戦争・扉


本作は東宝制作の劇場映画『惑星大戦争』のコミカライズ作品である。基本的に『スターウォーズ』などのSF映画ブームに便乗する形で、内容的には『海底軍艦』の宇宙版リメイクとなっている。主演は森田健作と浅野ゆう子。
コミカライズは居村真二が担当。「ウルトラシリーズ」のコミカライズのほか、オリジナルの作品などSFモノには定評のある居村だけに、25ページという短編でうまくまとめている。轟天号などメカの描写もシャープなタッチで、原作映画よりカッコよく描かれている印象がある。

前述した通り少ないページ数で劇場映画をコミカライズしているので、余裕のあるページ数であれば見せ場で見開きなども使いたいところだったろうが、1ページ大の大ゴマもなく、詰め込んだ印象が強い。ストーリー展開もスピーディといえばそれまでだが、展開を急いでいる感は否めない。とはいえ実力派の居村だけに一気に読める良質なSF短編に仕上がっている。
改めて読んでみると、コマ割りのうまさ、メカ登場シーンの構図の取り方など、職人的な技術の高さが感じられる。

映画の方はあまり評判がよくないようだが、コミカライズ版の方は機会があればぜひ読んでいただきたい作品である。

初出/講談社「月刊少年マガジン」(昭和53年1月号)

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】189回 アクマイザー3/やまと虹一(原作・石森章太郎)

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「うちの本棚」、今回取り上げるのはやまと虹一がコミカライズを担当した石森章太郎原作の『アクマイザー3』です。
「月刊少年マガジン」で2回だけ連載された、前後編の読み切りに近い作品ですが、内容面、作画面、ともに水準の高い佳作といえるでしょう。

【関連:188回 惑星大戦争/居村真二】

アクマイザー3-01 アクマイザー3-02


本作は『秘密戦隊ゴレンジャー』と同じ集団ヒーローものの特撮テレビドラマ『アクマイザー3』のコミカライズ版で、原作は石森章太郎、コミカライズはやまと虹一が担当した。今回取り上げた「月刊少年マガジン」版は2回だけの連載だったが、同じ講談社の「テレビマガジン」など他の媒体でもコミカライズされていて、やまと虹一は複数の媒体で作画を担当していた。
ちなみに、やまと虹一のコミカライズ作品は本作のほかにも石森章太郎原作のものがいくつかある。またダイナミック・プロに所属していた時期もあり、本作もそうだが、絵柄的には石森というより永井 豪に近い印象がある。

内容は、地球内部の地下にあるアクマの世界から、地上の侵略が始まるが、アクマと人間の混血であるザビタンは、そんなアクマに反逆し、イビル、ガブラのふたりのアクマ族とともに地上侵略を阻止するために闘うというもの。もっとも主人公として動くのは、そんなアクマの侵略やザビタンたち「アクマイザー3」の存在を知り、協力する一平という新聞記者である。

それにしてもアクマ族が人類以前に地球に誕生していた種族であり、地下世界にその生存圏を求めていたのが地上への復帰を決意し、人類を奴隷とするため侵略を開始するというのは『デビルマン』と『ゲッターロボ』を足したような設定だ。主役であるザビタンたち「アクマイザー3」がもともとアクマ族であり、裏切るというのも『デビルマン』同様といえる。同じ東映系作品だから、と言ってしまっていいのだろうか。

やまと虹一のコミカライズはストーリー重視で、作品として読みごたえのある仕上がりになっている。その分、特撮作品的な主役ヒーローの必殺技などの印象が薄いのは否めないが。
テレビドラマでも描かれた、仲間を裏切って人類に味方するというザビタンの苦悩も、2話で少し触れられていて、全2回で終了してしまっているのが残念な作品だ。
これまで単行本化のチャンスに恵まれていない本作であるが、内容面、作画面、両方ともに高水準の仕上がりなので、単行本化されることを期待している。

初出/講談社「月刊少年マガジン」(1975年11月号、12月号)

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】192回 キャプテン・スカーレット/江波譲二

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「うちの本棚」、今回はスーパーマリオネーションの傑作『キャプテン・スカーレット』のコミカライズ作品を紹介いたします。江波穣二が作画を担当した「週刊少年サンデー」版は少ないページ数でありながら、ハードな内容の本作を見事に描いていました。


【関連:191回 レインボーマン/あだち充(原作・川内泰範、脚色・伊藤恒久)】

キャプテン・スカーレット-01 キャプテン・スカーレット-02


本作は『サンダーバード』で知られる、ジェリー・アンダーソンのスーパーマリオネット作品『キャプテン・スカーレット』のコミカライズである。
映像作品は『サンダーバード』に比べて難解(「死んでも死なない」主人公や姿を現さない敵「ミステロン」など)だったためか、あまり話題にはならなかった印象がある。もっとも大人も含めた視聴者を対象に制作された作品を、子供(特に低年齢層)向けに放送してしまうという日本のテレビ局事情にも問題があったのではないかという気がする。キー局はTBSで、このあと円谷プロの「ウルトラシリーズ」も低年齢層向けにしていった戦犯とも言っていい存在だろう(いいすぎ?)。

怪獣・特撮やアニメ、マリオネーションを内容に関係なく見た目だけで子ども向けと考える、上から目線の何もわかっていない「大人」の会社である(少なくとも当時は)。

コミカライズである江波穣二版は、「少年サンデー」のほかにも同じ小学館の「小学四年生」「小学五年生」にも、1月~4月号、1月~7月号にそれぞれ連載されていたようだが、未確認。実は「少年サンデー」版もすべては見ていなくて、手元には連載途中から最終回の11話分があるだけだ。

テレビ放映中の作品でもあり、週刊マンガ誌の連載であるから、それなりの内容、ボリュームを想像すると思うが、なんと1回のページ数は見開き2ページ。1話につき2回完結という形式だった。したがってコマ割りも細かく、ナレーションも多くなる。

作画担当は江波穣二だが、構成として北川幸比古がクレジットされているのは30分のドラマを全2回、4ページでまとめるためだったのだろう。『サンダーバード』よりもリアル指向の強くなった映像本作に、江波穣二の作画はぴったりで、もっとページ数があればよかったのにと思う。

本作にはほかに一峰大二や旭丘光志によるコミカライズがあったようだ。版権等いろいろクリアしなければならない問題は多いのかもしれないが、江波穣二版ともども単行本化していただきたい。

初出/小学館「週刊少年サンデー」1968年

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/


【うちの本棚】193回 ウルトラマン/楳図かずお

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「うちの本棚」、今回は特撮テレビ作品の代表ともいうべき『ウルトラマン』のコミカライズを取り上げます。

いくつかある『ウルトラマン』のコミカライズ作品のなかでも異彩を放つ、楳図かずお版。テレビ作品のストーリーを下敷きにしたオリジナルな展開は、いま読んでも十分に楽しめるものです。

【関連:192回 キャプテン・スカーレット/江波譲二】

ウルトラマン01・サンワイド ウルトラマン02・サンワイド


本作は円谷プロ制作の特撮テレビ番組『ウルトラマン』のコミカライズ作品である。同時期に放映された『マグマ大使』(こちらの方が一週早く放送が開始された)とともに特撮巨大ヒーローのブームを作るきっかけとなった作品だ。

コミカライズを担当した楳図かずおは、貸本マンガ、少女マンガ誌を経て、少年マンガ誌に進出し始めたころで、すでにホラー作品で定評があったこともあり、「妖怪も怪獣も同じ」ということでの起用だったのではないかと本人は述懐している。
確かに映像本編に比べると気持ちの悪いくらいに生物的な「バルタン星人」など、楳図かずおならではの作品となっている。映像作品ではゴジラ以外の何者でもなくってしまっている「ジラース」も、恐竜的に描かれていて、むしろ好感が持てたりもする。

初出後はすぐに単行本化されることなく、半ば埋もれていた作品だが、朝日ソノラマの「サンコミックス」が全3巻で復刻したあと、今回取り上げた「サン・ワイド・コミックス」にも収録され、その後A5判、コンビニコミックと刊行された。現在は講談社から文庫版が刊行されている。

『ウルトラマン』のコミカライズというと講談社「ぼくら」に連載された一峰大二版が、秋田書店「サンデーコミックス」で刊行されていたこともあり有名だが、楳図かずお版はテレビ作品を下敷きに、オリジナルな展開が楽しめる、怪獣ホラー作品ともいうべき作品で、じっくりと味わって読んでいただきたいものだ。

初出:講談社「週刊少年マガジン」昭和41年27号~昭和42年19号、「別冊少年マガジン」

書 名/ウルトラマン(全2巻)
著者名/楳図かずお
出版元/朝日ソノラマ
判 型/B6判
定 価/各630円
シリーズ名/サン・ワイド・コミックス
初版発行日/第1巻・昭和59年6月30日、第2巻・昭和59年7月20日
収録作品/第一巻・バルタン星人、怪獣ヒドラ、怪獣ガヴァドン、怪獣ジラース、第2巻・怪獣ドドンゴ、怪すい星ツイフォン、メフィラス星人、「楳図かずおと怪獣漫画/安井ひさし」

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】196回 怪奇大作戦/桑田次郎

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 「うちの本棚」、今回も特撮テレビドラマのコミカライズ作品から、桑田次郎の『怪奇大作戦』を取り上げます。

 常識では考えられない不可解な事件に科学のメスを振るう「SRI」の活躍を描いた異色の特撮テレビドラマを、桑田次郎のシャープな描線が見事に再現しています。

【関連:195回 ウルトラセブン/一峰大二】

怪奇大作戦・全


 本作は円谷プロ制作の特撮テレビドラマ『怪奇大作戦』のコミカライズ作品である。
『ウルトラマン』『ウルトラセブン』と巨大ヒーロー、怪獣が登場する特撮番組を制作してきた円谷プロが、『ウルトラQ』企画当初のような、人間の心理を鋭くえぐる不可解な犯罪事件に、科学のメスを入れるといった内容の特撮番組に挑戦したもの。

 中には吸血鬼や人間を溶かす毒鱗粉を持った蛾なども登場するが、たとえば「かまいたち」のような、科学的にトリックを暴くとともに、犯人の心理に迫るようなエピソードが中心だ。主人公の属する「SRI」は警察の依頼を受けて事件を科学的に調査する機関であり、いわゆる「科研」を扱った最初の作品だと思う。

 桑田次郎のコミカライズ版では「人喰い蛾」「吸血地獄」といったエピソードを取り上げていて、連載中盤から桑田オリジナルのストーリーになったあとも、知能を持った吸血植物や幽体離脱など、オカルト的な傾向が強い。もちろん科学の目でそれらの原因に迫っていくところは、テレビドラマと同じではある。
『ウルトラセブン』のコミカライズ同様、テレビドラマのシャープな印象は、桑田の描線に合っていて、単なる怪奇ドラマではない本作の魅力を伝えるのに効果を与えている。

 単行本は初出後しばらく出されず、朝日ソノラマの「サンコミックス」が『ウルトラマン』『ウルトラセブン』に続く形で刊行したのが最初となる。ただし未収録作品があり、後に「サン・ワイド・コミックス」に収録した際それを追加し、単行本のタイトルに「(全)」が付された。

 その後また入手の難しい時期があったが、パンローリングの「マンガショップシリーズ」から『学園名主』を併録して2005年に再刊行された。

初出:集英社「少年ブック」昭和43年10月号~昭和44年3月号

書 名/怪奇大作戦(全)
著者名/桑田次郎
出版元/朝日ソノラマ
判 型/B6判
定 価/570円
シリーズ名/サン・ワイド・コミックス
初版発行日/昭和60年8月30日
収録作品/蛾、死を呼ぶ絵、ふたつの顔の少女、まぼろし殺人事件、闇からの声、死霊の家、解説「怪奇大作戦」の誕生から劇画まで(金子益実)

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】198回 ハウス HOUSE/三浦みつる

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「うちの本棚」、今回ご紹介するのは、大林宣彦監督の初劇場映画作品『ハウス HOUSE』のコミカライズ作品です。
『The・かぼちゃワイン』で知られる三浦みつるが25ページでまとめ上げた見事な作品といえるでしょう。

【関連:197回 怪奇大作戦/影丸穣也、中条けんたろう】

ハウス


「The・かぼちゃワイン」で知られる、三浦みつるによる劇場映画のコミカライズ作品。
 映画版は大林信彦のデビュー作にあたる。また原案の大林千茱萸は監督の娘で、当時12歳の中学生だったということである。

 内容は、人を食う屋敷の餌食になる少女たちというホラーもので、それまでの日本のホラー映画とは一線を画すスプラッター作品というイメージの強いものだったと思う(実際にはそれほど流血シーンはないようだ)。
 三浦は手塚治虫のアシスタントを経験しているためか、その画風は手塚調で温かみのあるもの。後半にスプラッターシーンが集中しているが、嫌悪感を抱かせるものではなく、すっきり(?)まとめられている。
 88分の劇場映画を25ページで描くというのはけっこう削らなければならない部分も多く、本作でも主な登場人物である7人の少女の運命を描いているが、ひとりひとり姿を消してもいくので、早々に登場しなくなる少女もいたりする。
 本作の存在についてはあまり知られていないのか、ウィキペディアの「ハウス(映画)」「三浦みつる」両項目に本作の記載はなかった。
 映画作品のコミカライズとして、よくまとめられている作品なので、初出以来埋もれているのだとしたら大変残念なことである。

初出/講談社「月刊少年マガジン」昭和52年6月号

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】255回 雨あがり/一条ゆかり

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 「うちの本棚」、今回からしばらく一条ゆかりの作品を取り上げていこうと思います。その一回目は『雨あがり』。年上の女性に恋をした主人公の心情をじっくりと描いた作品です。

【関連:254回 一万十秒物語/倉多江美】

雨あがり

 一条ゆかりといえば少女漫画家を代表するひとりで「りぼん」の看板作家だった、というのが個人的な印象だ。とはいえ代表作というと『デザイナー』に『砂の城』とそれほど多くはなく、いずれもドロドロの愛憎劇である。また「りぼん」を発行している集英社では、小中学生がメインターゲットの「週刊マーガレット」、中高生がターゲットの「別冊マーガレット」があり、「りぼん」はそれらよりも下の世代をターゲットにしていた印象があったのだが、一条ゆかりが描く作品の多くは高校生以上をターゲットにしたようなものが多かった気がする。もっとも他の「りぼん」作家たちも低年齢層に向けた作品を描いていたかというとそうではないので、こちらのイメージが間違っていたのかもしれない。

 今回取り上げた『雨あがり』もドロドロな愛憎劇のひとつで、父親の再婚相手に恋をしてしまう大学生の話だ。読み切りの中編ではあるが、どう考えても昼メロ的なテーマであり、「りぼん」という雑誌の編集方針には驚かされる(笑)。

 母親が亡くなってから十年。命日には必ず墓参りをしている主人公が墓地で出会った美しい女性が、実は父親が再婚を考えている女性だったというところからストーリーが始まる。主人公は義母に対する恋心に無意識だったのだが、幼なじみの同学年の女の子にそれを指摘され、歯止めが利かなくなってしまう。義母も主人公の熱い想いに、夫はひとりでも生きていけるが、彼は自分がいないと…と心を動かされたりする。いやあ、一歩間違えればAVみたいなお話です(笑)。実際、発表された時期や媒体が違えばそういう内容になっていたでしょうね。
『女性志願』と『セント・マリーの牧師さま』は共にラブコメ(本書カバーの折り返しでは「ロマコメ」と表現してますが)。
『女性志願』は男の娘的な話かと想像したのだけれど、男の子みたいな女の子が恋をする話しでした。女の子みたいな弟が女装するシーンは出てくるけどね。要所要所で挿入されるシリアスな絵柄が印象的な作品でもあります。
『セント・マリーの牧師さま』は勉強ばかりしてオシャレにも興味のない女の子が恋をするお話。よくある設定といえばその通りではあるけれど、恋の相手が牧師というのが特徴ですな。

初出:雨あがり/集英社「りぼん」昭和46年4月号、女性志願/集英社「りぼん」昭和48年1月号、セント・マリーの牧師さま/集英社「りぼん」昭和47年3月号

書 名/雨あがり
著者名/一条ゆかり
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/320円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス
初版発行日/1974年11月10日
収録作品/雨あがり、女性志願、セント・マリーの牧師さま

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】256回 ハートに火をつけて/一条ゆかり

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 「うちの本棚」、今回は一条ゆかりの『ハートに火をつけて』をご紹介いたします。収録作品には同性愛を扱った『アミ…男ともだち』があり、密かに注目されている単行本です。

【関連:255回 雨あがり/一条ゆかり】

ハートに火をつけて

 『ハートに火をつけて』は大女優セシルの妹ジョゼが主人公の物語。妹というのはマスコミ向けの嘘で、じつはふたりは母子で、セシルが外交官と結婚することになり、その子供たちのうち娘はジョゼの同級生の女の子、そして兄はハンサムだが結婚に反対するギラン。ジョゼとギランの恋模様がストーリーの主軸になって進んでいく。カバー折り返しには「ロマ・コメ」と解説されているけれどコメディ要素はあまりなく、母を姉と偽っているところなど一条のいつものドロドロストーリーにならなかったのが不思議なくらいだ。

 『シェルフィールドの冬』は幼いころ仲のよかった年上の女性と再会し、恋に落ちる青年のストーリー。年の離れた男性と結婚していた女性は、自分が幸せなのかわからないといい、再会した青年と過ごした昔の自分を思いだす。そして故郷に帰ろうという青年の言葉に揺れるのだが…。

 『アミ…男ともだち』は異色の作品。竹宮恵子の『風と木の詩』以前に同性愛を扱った作品として語られることもある。もっとも個人的な感想としては、やはり竹宮恵子の『サンルームにて』を、「自分だったらこう描く」といった意図で描かれたのではないかという気がしてしまう。

 個人的な印象として、一条ゆかりの作品にはどうにもできない運命のドロドロ愛憎劇というのがあって、表題作の『ハートに火をつけて』よりは『シェルフィールドの冬』『アミ…男ともだち』の2作の方が一条らしいと感じてしまう。また『アミ…男ともだち』はもっと長い作品にもできたであろうものなので、読み切りの短編はもったいないなとも思う。もちろんこのテーマで長編を描くにはまだ時代的に難しかったというのもあるのだろうけど。

初出:ハートに火をつけて/集英社「りぼん」昭和48年2月号別冊ふろく、シェルフィールドの冬/集英社「りぼん」昭和46年12月号、アミ…男ともだち/集英社「りぼん」昭和48年3月号

書 名/ハートに火をつけて
著者名/一条ゆかり
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/320円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス
初版発行日/1975年1月10日
収録作品/ハートに火をつけて、シェルフィールドの冬、アミ…男ともだち

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】番外編/THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦

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 今回の「うちの本棚」は、番外編として5月1日公開『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』をご紹介いたします。実写版『パトレイバー』シリーズの到達点でもある本作。リアルな映像とストーリーを堪能してほしいと思います。

【関連:警視庁の非公認VSお荷物、獣娘が特車二課を急襲】

パトレイバー 首都決戦

監督・脚本/押井 守
キャスト/筧 利夫、真野恵理菜、福士誠治、太田莉菜、堀本能礼、田尻茂一、しおつかこうへい、藤木義勝、千葉 繁、森カンナ、吉田鋼太郎、高島礼子、ほか。
2015年/94分/日本

 2014年4月から上映が開始された、実写版『パトレイバー』の到達点として、本作長編劇場作品『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』はある。

 ストーリーは劇場版アニメ『パトレイバー2』の後日談となっていて、東京を舞台としたテロに特車二課のメンバーたちが立ち向かっていく姿を描いている。…というよりもアニメ版『パトレイバー2』を実写にしたといった方がわかりやすいだろうか。
設定上はアニメ版の主要キャラクターたちの跡を継いだメンバーで構成されいるわけだが、性格的にはアニメ版のキャラクターを当てはめたものになっており、アニメ・コミックをそのまま実写にしたということではないのだが、事実上キャラクターのイメージは同じとなっている。
その代表的な例が筧 利夫が演じる隊長の後藤田だろう。前任である後藤警部補の後輩という設定だが、容貌も性格も後藤をイメージしている。

 また今回の作品では、顔ははっきりとは映されないものの、南雲しのぶが登場している。もちろん声は榊原良子だ。これはアニメ版のファンにも嬉しい演出だろう。と共に、この実写版がアニメ版から続いているものだということを印象づけてもいる。

 今回実写版オリジナルのキャラクターとして登場しているのは、高島礼子が演じる公安の女性警部補。登場直後は『パトレイバー』の世界観に高島礼子が似合うのか多少不安な気持ちになったのだが、観終わってみれば高島礼子抜きには語れない作品と言っても過言ではないほど、高島の存在感は大きい。役どころとしては、表立って動けない公安から、特車二課を上手く使う「ずるい女」というところなのだが、アクションシーンも様になっており、『攻殻機動隊』の素子がもう少し年齢があがったような印象すらある。あるいは押井監督にもそういうイメージがあったのかもしれない。

 アニメ版『パトレイバー2』がそうであったように、今回の作品でもレイバー自体の活躍は終盤のみである。実写版のレイバーの活躍を期待していると、ちょっと残念な気持ちになるかもしれない。しかし、見せ場はあるのでじっくりと鑑賞していただきたい。
実写版『パトレイバー』シリーズも、これで完結ということになるわけだが、テロリスト側として登場し、その正体が不明なまま姿を消した灰原 零というキャラクターもいて、そこはかとなく続編の予感もある。とはいえ、まずは本作を堪能していただきたい。

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】257回 ママン・レーヌに首ったけ/一条ゆかり

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 「うちの本棚」、今回取り上げるのは、一条ゆかりの『ママン・レーヌに首ったけ』です。シリアスな場面も所々みられますが、全体として明るいラブコメディ。読み切り作品として発表されたようですが、長編を読んだような充実感のある仕上がりです。

【関連:番外編/THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦】

ママン・レーヌ

 ラブコメ3作を収録した単行本。一条ゆかりの陽の面を楽しめる一冊と言ってもいいかもしれない。

 『ママン・レーヌに首ったけ』は、魅力的でモテモテな母を持った息子のドタバタラブコメディといった感じで進行するストーリー。母親といっても思春期の息子がいる割りには若く、さらに年下にモテモテ。そんなママン・レーヌに恋して家政婦がわりに住み込んでくるのが主人公の2つ年上の、学校の先輩だったりもする。けれどママン・レーヌは息子を溺愛している上に、初恋の男性を忘れられずにいるという…。
決して多くない登場人物たちが、何らかの形でつながりがあって、世の中狭いのねと思ったりもするが(いや、決してご都合主義とかそういうことではありませんよ・笑)、読者にとっては分かりやすくてよい。終盤、ちょっとだけ『雨あがり』のような年上の女性を愛した少年の切ない想いも描かれるが、総じて明るい作品ではある。

 『ラブラブ・ハイスクール』『ミス・キューピット』の2作は初期作品。絵柄的にも拙さの残るものだけれど、一条らしさは出ていて感心する。2作とも典型的なラブコメに仕上がっていて、典型的であるがゆえにこのジャンルのお手本のようにも感じられたりする。恋に揺れ、悩む少女の心情を軸にして描かれるストーリーは確かに「少女漫画」の定番のように思える。がその中にも一条らしいアイデアが盛り込まれていたりして、この作家の怖さのようなものを感じたりする。

初出:ママン・レーヌに首ったけ/集英社「週刊マーガレット」昭和50年33号、ラブラブ・ハイスクール/集英社「りぼんコミック」昭和44年10月号、ミス・キューピット/集英社「りぼんコミック」昭和44年2月号

書 名/ママン・レーヌに首ったけ
著者名/一条ゆかり
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/320円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス(RMC-85)
初版発行日/1976年4月10日
収録作品/ママン・レーヌに首ったけ、ラブラブ・ハイスクール、ミス・キューピット

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/


【うちの本棚】258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり

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 「うちの本棚」、今回は一条ゆかりの『わらってクイーンベル』をご紹介いたします。天涯孤独な主人公が、資産家の跡取りに、という少女マンガらしい展開のラブコメディ。次々に降りかかるトラブルもジェットコースターのようで一気に読めてしまいます。けど、個人的には後編に併録された『ラブ・ゲーム』がオススメだったりして(笑)。

【関連:257回 ママン・レーヌに首ったけ/一条ゆかり】

クィーンベル前 クィーンベル後

『わらってクイーンベル』はいかにも少女マンガな設定の長編。母の死をキッカケに7歳でスイスの山奥にある全寮制の学校に入れられたクイーンベルは、修道院のようなその学校で10年を過ごしていたが、後見人であるボストン氏から生まれたころに死んだと聞かされていた父が、つい最近亡くなったと知らされ、父の家であるイギリスのロワイヤル家に迎えられる。イギリスの富豪であった父の財産を継ぐことになるのだが、実はクイーンベルの母は正妻ではなかった。正妻にも行方不明の息子がいて、その存在が確認されればクイーンベルは跡取りにはなれない。が、偶然にも息子が見つかり、それはクイーンベルがイギリスに向かう途中スイスの空港で出会った青年でもあった。

 イジワルな従姉妹の登場、兄となる青年への恋心と少女マンガらしい展開の連続である。クイーンベルのキャラクターも陽気でコメディ要素ももっていて、一条ゆかり作品にありがちなドロドロしたストーリーにはなっていない。異母兄妹の恋愛ということも匂わせていたが、これは成立しないで終わる。もっともだからこそ、本作のあとに描かれた『デザイナー』につながるのだろう。

 あとがきによれば、イジワルな従姉妹のアイーダとプレイボーイのジュノが作者のお気に入りだったとのことで、確かに後半になるとこのふたりがストーリーを引っ張っていっている。
『プレイボーイをやっつけろ』はデビュー2年目に描かれた読み切り作品。まだ絵に初期のタッチが残り、細かい描き込みも少ない。

 主人公は男の子のような女の子パフ。資産家の息子で両親に死に別れ、毎日違う女の子とデートするイケメンのライダーを嫌っていたのだが、いつのまにか恋してしまうというラブコメの王道パターン。
『ラブ・ゲーム』は『わらってクイーンベル』終了後に描かれた読み切り作品。一条ゆかりらしいドロドロの恋愛ドラマ、と言っていいと思う。最愛のものを奪われたことで、少年はひとつのゲームをはじめる。それはラブゲームという復讐のゲーム。掲載誌が「りぼん」なので直接的なシーンは描かれていないが集団レイプなどもあって内容的にはかなり大人向け。ちょっと読み切りの短編であることがもったいなく感じられる。『わらってクイーンベル』の明るいラストの反動がこの作品のシビアな展開に影響していたのかな? と思えたりもする。

初出:わらってクイーンベル/集英社「りぼん」昭和48年4月号~9月号、プレイボーイをやっつけろ/集英社「りぼんコミック」昭和45年3月号、ラブ・ゲーム/集英社「りぼん」昭和48年11月号

書 名/わらってクイーンベル(前・後編)
著者名/一条ゆかり
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/前編・250円、後編・320円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス(RMC-55、56)
初版発行日/前編・1974年2月10日、後編・1974年3月10日
収録作品/前編・わらってクイーンベル、プレイボーイをやっつけろ、後編・わらってクイーンベル、ラブ・ゲーム、作品リスト

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】259回 デザイナー/一条ゆかり

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 「うちの本棚」、今回取り上げるのは一条ゆかりの『デザイナー』です。ファッション業界を舞台にした、これでもかって言うくらいドロドロした恋愛人間ドラマの名作。

【関連:258回 わらってクイーンベル/一条ゆかり】

デザイナー・前 デザイナー・後

 一条ゆかりといえば、現在は『有閑倶楽部』が代表作であり、よく知られていると思うが、その前は『砂の城』、そしてこの『デザイナー』が代表作として知られていた。
 自分を捨てた母親への復讐や、そうとは知らずに父親に恋してしまうなど、どろどろの人間ドラマが展開している作品だけあって、人気も高かった。またモデルやデザイナーといった女子が憧れる職業や業界を舞台にしたのも良かったのだろう。もっとも一条の場合、華やかで夢のある世界というよりは、欲望渦巻くドロドロとした業界という描き方で、この作品を読んでデザイナーになりたいと思う読者は少ないだろうけど(笑)。

 一流モデルとして人気の亜美は、その名前以外名字も年齢も不明というミステリアスな女性で、モデル仲間にもその冷たい態度から敬遠されている。が、ひとたびステージに立てば舞台は華々しくなり、会場は沸く。実は、亜美は生まれてすぐに養子に出され、育ての親も1年後に事故でなくなり、その後は12歳で飛び出すまで孤児院で過ごした。少女がひとりで生きていくために必死の思いだったわけだが、生きる原動力のひとつに自分を捨てた母親への憎しみがあった。モデルとして成功したいま、その母親が、現在仕事で接しているデザイナーの鳳 麗香であると知り、その動揺から交通事故を起こして脚の神経を痛め、モデルを引退せざるを得なくなる。そこに現れたのが、結城コンツェルンのトップ、結城朱鷺だった。莫大な経済力を使って亜美をデザイナーとして教育し、売り出し、鳳 麗香への復讐を叶えさせるという朱鷺の提案を、亜美も受け入れる。やがて亜美と麗香はデザイナーの女王を争うことになっていく。
 母親譲りなのか、デザインにも才能を発揮する亜美だが、恋愛はことごとく悲恋に終わる。そしてその結末は…。
 それまでもシリアスな作品ではどろどろの恋愛ドラマを描いてきた一条だが、この『デザイナー』はその集大成とも言うべき作品で、代表作の名にふさわしいものだった。主人公の亜美と朱鷺は共に18歳という設定だが、とても大人びているし、デザイナーという仕事に生きるために生まれてすぐの子供を養子に出す麗香の生き方も、とても少女漫画的ではないだろう。もっとも、なんのバックボーンもなく一匹狼で一流モデルになり、車の運転はカーレーサー並という亜美の設定は実に漫画チックではあるのだけれど。とはいえ、描かれていないだけで、「生きていくためには何でもしたわ」という亜美のセリフを深読みすれば、枕営業くらいはしていたのかもしれないのだが(笑)。

初出:デザイナー/集英社「りぼん」昭和49年2月号~12月号

書 名/デザイナー(前・後編)
著者名/一条ゆかり
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/各320円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス(RMC-90、91)
初版発行日/前編・1976年7月10日,後編・1976年8月10日
収録作品/前編・デザイナー、作品リスト、後編・デザイナー

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり

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 「うちの本棚」、今回ご紹介するのは一条ゆかり幻の長篇『5(ファイブ)愛のルール』です。広告業界を舞台にしたドロドロの恋愛ドラマだったのですが、連載途中で打ち切りとなったもの。28年後、ようやく単行本化されました。

【関連:259回 デザイナー/一条ゆかり】

5愛のルール

 『デザイナー』でどろどろの恋愛人間ドラマを描ききった一条が、次に取り上げたのが広告業界。広告代理店を舞台に、企業の裏側などを描いていく物語が、この『5(ファイブ)愛のルール』だった。はずなのだが、第一部終了のまま、単行本化されることもなく、幻の作品となり、連載をリアルタイムで読んでいたファンの間で伝説と化しながら、時折イラスト集などにカラーイラストが掲載されたり、作品リストにそのタイトルが記載されたりする以外、いったいどのような作品なのかわからなかった。ボクも知人から「『5(ファイブ)愛のルール』っていう作品があって、面白かったんだけど、単行本になってない」と、噂だけ聞かされていたので、いったいどんな作品なのだろうかと、悶々としていたひとりである。が、連載終了後28年を経過して、ついに文庫判で単行本化された。またあとがきでは連載打ち切りの経緯や未執筆の構想部分についても言及されて、ファンもようやく納得ができただろう。

 連載打ち切りの理由は、ひと言で言って掲載誌である「りぼん」の対称読者と作品内容のギャップで、未完であることから単行本化を見送り封印されてしまったわけだが、読者の人気も高く、文庫本での初単行本化はちょっとした事件だと思ったのだが、28年という年月は長すぎたのか、世間的な話題にはならなかった印象がある。いや、もしかしたらひっそりと、文庫本で刊行してしまおうというのが作者の意図であったのかもしれない。
 また、連載当時それほど知られていなかった広告業界を舞台にするということで、一条は協力者として、秋吉 薫という人物を迎えている。ちょっと聞き覚えのないこの人物、あとがきによると漫画原作者の牛 次郎氏の別名で、当時少年マンガの原作で知られていた牛をそのままクレジットするのは「りぼん」にはふさわしくないと判断した一条が、別名でのクレジットを要請したとのことである。

 デザイン学校を卒業したばかりで、小さな広告会社に勤める麻保。しかし仕事はお茶汲みや雑用ばかりでやりがいのある仕事はまだしたことがない。そんなとき、歌手を目指す姉の理恵を通じて知り合った大手広告会社の鷹見に、その才能を買われ、会社を辞め鷹見のアシスタントとなる。理恵もモデルとしてCMに出演するなど姉妹揃って成功への道を歩み始めるのだが、理恵は鷹見の恋人になりたいと努力するものの、鷹見には大手広告会社の社長令嬢であり、人気モデルのユリアという婚約者がいる。また麻保も鷹見に自分では気づかないまま心惹かれている。鷹見の片腕でカメラマンの立原はそんな彼女たちを冷静に見ながらも麻保に心を寄せている。
 タイトルの『5愛のルール』は広告における「5Iのルール」に引っかけたものだが、さらに5人の登場人物の愛の物語ともなっている。
 3人の女性に想われる鷹見はまた別の女性に心を奪われていて、さらには両親の復讐を胸に秘めてもいる。
 ストーリーは上記のように恋愛模様に彩られてはいるが、印象として広告業界を描いていて、大手広告会社から独立した鷹見の辣腕を中心に広告の世界でのサクセスストーリーと見ることができる。化粧品会社のCMで成功した理恵は売れっ子となり、歌手デビューまでするというのはいまの業界でも見慣れた光景かもしれない。
 そして鷹見を巡って理恵とユリアが火花を散らし、麻保は心を痛め、一条お得意のドロドロな展開へと進んでいく…。

 第一部終了という形で連載を終了しているわけだが、あとがきにもあるように一条自身は続きをすぐにでも描くつもりでいたためか、後を引く部分が多い。大まかな構想はあとがきで公開されているが、作品として完結させてほしかったというのはファンにはあるだろう。

『くうちゅう・しばい』は一条の日常を垣間見られる半ノンフィクションな作品で、少女漫画家のぼやきが伝わってくる。一条にかぎらず漫画家や作家には共通したものかもしれない。

初出:5(ファイブ)愛のルール/集英社「りぼん」1975年5月号~12月号、くうちゅう・しばい/集英社「りぼん」1980年9月大増刊号

書 名/5(ファイブ)愛のルール
著者名/一条ゆかり
出版元/集英社
判 型/文庫判
定 価/571円(税抜き)
シリーズ名/集英社文庫(コミック版)
初版発行日/2003年8月13日
収録作品/5(ファイブ)愛のルール、くうちゅう・しばい、あとがき

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】261回 ティー・タイム/一条ゆかり

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「うちの本棚」、今回は一条ゆかりの『ティー・タイム』をご紹介します。
 個人的には『デザイナー』と共に好きな作品で、京子さんというキャラクターが実に魅力的に描けてるなあと思うのであります。

【関連:260回 5(ファイブ)愛のルール/一条ゆかり】

ティータイム前

『ティー・タイム』は『5愛のルール』打ち切り後連載された作品(間に『ママン・レーヌに首ったけ』『こいきな奴ら3』の読み切り2作がある)。
『5愛のルール』が掲載誌の対称読者層とは離れたオトナのドラマであることを理由に打ち切られたためか、本作の主人公は高校生。とはいうものの、冒頭から主人公への想いが断ち切れずに実の姉が自殺しているというヘビーな展開な上に、主人公の親友ふたりも含めてドロドロな恋愛ドラマがいくつも平行して描かれる。主人公紫苑(しおん)は、小説家の父、元モデルで現在はモデルクラブを経営するフランス人の母との間に生まれた金髪が美しい美形男子。姉は母のモデルクラブの売れっ子モデルだった。実家を離れ、ひとりで洋館に暮らしていた姉と、同じ生活をすることを目的に、紫苑もこの洋館に越し、高校も姉が通っていた学校に転校。そこで中学時代の悪友、惣と薫に再会する。洋館には家政婦の京子がいるが、乱暴な言葉づかいで紫苑を圧倒する。その京子の妹は、紫苑と同じ高校の後輩で、紫苑に憧れているのだが、この舞という娘には薫が思いを寄せている。また惣は自分の父親が好きな年上の女性に恋をしているという、これだけで独立したストーリーが描けるような設定となっている。

 紫苑は、姉の想いを受け止められなかったことを悔い、姉の生活をトレースするように暮らし始めるが、そこに姉のモデル仲間ルシエンヌが訪れ、自分も彼女を愛していたと告白する。紫苑は姉の代わりとなって、ルシエンヌと接することになるのだが…。
 とここまで見てきても、とても小中学生向けの作品には思えない(笑)。『デザイナー』や本作『ティー・タイム』が完結まで連載されたのに『5愛のルール』がなぜ打ち切られたのか、ちょっと疑問は残る。まあ本作の場合連載期間も少し短めなので、連載中から路線の修正などもあって、予定よりも早く終わった可能性もあるだろう(あくまでも憶測)。
 後半は紫苑が姉の後を追うような生活の虚しさに気づき、自分らしく生きようとすることと京子との恋が描かれるのだが、この京子というキャラクターはこれまでの一条作品にはあまり見られない登場人物で、なかなかよい。どうやら作者も気に入っていたようだ。

 同時に収録された短編は、いずれも初期作品で『ティー・タイム』当時の絵柄とはまた違うものばかり。一条の初期の絵柄は、どちらかといえば水野英子調といえるだろう。
『彼…』は、かなりシリアスな作品で、初出の昭和46年には衝撃的な内容だったのではないかと思う。また一条が、初期からシリアスな男女の恋愛を描いていたことも再確認できる。
『ジルにご用心』はコメディ調のものだが、根底には父親のいない寂しさなど、深いテーマが描かれている。登場人物たちがうまいこと結ばれていくご都合主義は、この際目をつぶっておこう。
『花嫁はいかが!?』もコメディ調の作品。ちょっとページが足りなかったのか、ラストページが窮屈な印象だ。
『夜のフェアリー』はバレエをテーマにしたちょっとオカルト風の作品。大理石の像に恋した青年といったところだが、一条が描くとロマンティックな物語に仕上がる。これが山岸涼子なら背筋がゾクっとするような作品になっていたことだろう。

ティータイム後

初出:ティー・タイム/集英社「りぼん」昭和51年5月号~11月号、彼…/集英社「りぼんコミック」昭和46年3月号、ジルにご用心/集英社「りぼんコミック」昭和45年9月号、花嫁はいかが!?/集英社「りぼんコミック」昭和44年4月号、夜のフェアリー/集英社「りぼんコミック」昭和44年7月号、ゆかりのミニミニめるへん/描き下ろし?

書 名/ティー・タイム(前・後編)
著者名/一条ゆかり
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/各320円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス(RMC-101、102)
初版発行日/前編・1977年3月10日、後編・1977年4月10日
収録作品/前編・ティー・タイム、彼…、ジルにご用心、後編・ティー・タイム、花嫁はいかが!?、夜のフェアリー、ゆかりのミニミニめるへん

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

【うちの本棚】262回 こいきな奴ら/一条ゆかり

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「うちの本棚」、今回は一条ゆかりの『こいきな奴ら』をご紹介いたします。作者本人もお気に入りでノッて描いた作品でもあり、ファンも多い作品です。

【関連:261回 ティー・タイム/一条ゆかり】

こいきな奴ら/一条ゆかり

 一条ゆかり本人もお気に入りのアクション作品。読み切り作品として発表されたあと読者の評判もよく第2話が一年後に描かれ、本刊行本となった。その後も第3話、第4話とシリーズは続き、ブランクを開けて「週刊マーガレット」にPART2として続編が連載もされた。
 フランスの貴族の家に生まれた双子の兄妹、ジュデェスとジュディス。兄は予知能力的な勘のよさとナイフ投げを得意とする天才少年。妹は武芸の達人。顔だちがそっくりなのはもちろんのこと、金髪のロングヘアも同じで見分けはつきにくい。というより見分けは出来ません(笑)。幸せな日々を送っていた兄妹に、交通事故による両親の死と、父親が経営していた会社の乗っ取りという不幸が突然襲いかかってくる。そんなとき出会ったのが、スリやこそ泥をしているクリームという青年。ジュデェスは彼の才能を、会社を乗っ取ろうとしているかつての父の部下の正体を暴くために利用しようと考え、クリーム自身はジュディスに惚れて行動をともにすることに。また兄妹の存在を疎ましく思う部下の方も、殺し屋を雇って兄妹を抹殺しようと企むのだが、この殺し屋も兄妹を狙ううち、金のためとはいえ子供を殺すことに嫌気が差し、雇い主に銃口を向ける。ここに、双子の兄妹と、スリのクリーム、殺し屋のパイという4人組が誕生する。
 第1話では4人組の誕生を描いたが、2話ではジュデェスの超能力に焦点を当てた、SF風味のスパイアクションとなる。KGBやらMI6なども登場してきてなかなか読ませる内容になっている。このあたりは初出の時期を考えると『007』シリーズなど、スパイ映画・ドラマの影響もあったのかもしれない。惜しいのは超能力の描写で、SF作品や超能力の登場する作品に親しんでいないとちょっとわかりにくかったのではないかと思える。目に見えない力をどう描くかというのは難しいところだと思うが、石森章太郎など、先行する作家を模倣している感じで、一条らしさとか少女漫画としての描き方というところまでは考えていなかったように感じる。

 単行本は、3、4話が『こいきな奴ら2』として「りぼんマスコットコミックス」から。また週刊マーガレット連載分は「マーガレットコミックス」から刊行された。のちに文庫版、コンビに向けの「集英社ガールズリミックス」としても刊行された。

初出:ジュディス・ジュデェス/集英社「りぼん」昭和49年1月号、エスパー狩り/集英社「りぼん」昭和50年1月号

書 名/こいきな奴ら
著者名/一条ゆかり
出版元/集英社
判 型/新書判
定 価/320円
シリーズ名/りぼんマスコットコミックス(RMC-76)
初版発行日/1975年8月10日
収録作品/ジュディス・ジュデェス、エスパー狩り

(文:猫目ユウ / http://suzukaze-ya.jimdo.com/

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